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   大牟田で過ごした十代のころは、野球に明け暮れていた。自転車で二つの峠を越えて学校に通い、授業もそこそこに白球を追いかける。当時、カウントダウンTVで紹介されていた楽曲をレンタルしてMDに焼き、練習試合に向かうバスの中でイヤホンごと耳に詰めていた。音楽を聴くためというより、友達とのカラオケになんとなく遅れをとらないようにするために。音楽をつくる人、人前で歌ったり、演奏したりする人は自分とは無縁の、人並みはずれた才能の持ち主なのだと思っていた。

 大人になって、エンタメコンテンツよりファッションに興味があったが、大学を卒業して入ったのはTSUTAYAをつくって運営している会社だった。本や映画、そして音楽を愛するたくさんの人たちと出遇い、少し寂しい気持ちになったのを覚えている。作品を熱く語る言葉、ライブ会場でそれらしく揺らす身体、彼らのような感覚を、自分は持っていない。「BACK TO THE FUTURE観たことないなんて全然ダメ」、「岡村靖幸知らんとか日本人なの?」、先輩たちの言葉に、文化芸術に疎い自分は原始的な脳みその生き物だと線を引かれたような気持ちになった。一方で、同期で彼女(当時)のcodamaを通して知り合ったバンドマンたちと一緒にお酒を呑んだり、映像作品を制作する友人ができたりしたのもこの頃。シャイな人が多い気がした。気を使わせない気遣いがうまい人も多かった気がする。今にして思えば、彼らが教えてくれた。人が歌ったり、演奏したりすることは、何も特別なことじゃない。誰かの特権とかじゃない。

 29歳のとき、お寺の住職を継ぐ準備を始めた。大学以来の京都に戻り、雅楽楽器の「笙」に出遇った。鳳凰が羽を広げた姿を模して 、17本の竹が頭と呼ばれる付け根から左右に伸びている。火で炙りながら温めなければ息を吹き込んでも鳴らない。手のかかる生き物のようなこの楽器の音は、光に似ている。下手くそだったが、お坊さん仲間と鴨川の河原や、祇園祭の路上などで雅楽のゲリラライブを開いては、一生懸命演奏した。言葉には表し難い、強いよろこびがあった。

 2018年に、大牟田とみやま、そして熊本県南関町の境にある明行寺に夫婦で移り住んだ。音楽ライブをもとめてcodamaとともに足を運んだのが「大牟田ふじ」。初めて訪れたその日の衝撃は、今も忘れ難い。昭和のキャバレーの名残り、江上計太さんの作品群、それから、聴いたこともないような音楽。尖った音とは裏腹に、気さくなオーナーの竹永省吾さん。聞くと、七尾旅人、ZAZEN BOYSなど、名だたるミュージシャンによる熱い夜の歴史もあるのだとか。生まれ育った街に、こんな場所があるとは夢にも思わなかった。およそ30年の間に約5万人が姿を消した故郷の街に、現代のアートや音楽に直接触れることのできる生きた場所があったなんて。

 表現に出遇うことは自分自身に出遇うことだと思うようになったのは、九州で活動するアーティストや、自律的なスペースの運営者との出遇いを通じてのこと。そして自分自身、めおとユニット「遇々(たまたま)」として笙を吹き始めた。大牟田ふじには観客として訪れることも、演奏者として訪れることも、運営のお手伝いに訪れることもある。誰にも表現する自由がある。年齢も学歴も関係ない。表現する命がすべての人に生きていて、だからこそ圧倒的な表現に出遇うことに興奮するのかもしれない。そんな命に触れることをご縁に、ご法座を開く。僧侶である自分にとって、ごくごく自然な企画が始まった。「なんもない夜座」は、葬儀や法事、お彼岸やお盆でなくても、いつだってご法座を開いていいという意味で、codamaが名付けた。表現する命が感応する集まりというのはそれだけでとても仏教的で、「LIVE」とは本当によく言ったものだと思う。

 街のためでも、お寺のためでもない。それは結果だ。そのまえに今、LIVEなわたしたち自身のために、ひとりでも多くの方がご一緒くださり、お力添えくださいますように。

 有難うございます。      



 

称名
​明行寺住職 福山智昭

Special Thanks  __________

これまでの圧倒的な出演者、そして西林寺ご住職・安武義修さんへ。  
引き続き精進して参ります。

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